2014年9月20日土曜日

湯船の法則

湯舟の法則


国語の授業開きで「勉強は湯舟に水を貯めることに似ている」ということを話したところ、多くの生徒諸君から、「なるほど」という反応があった。こういう反応があるのは嬉しいので、文章にしておこうと思う。


まず、勉強についての誤解がある。これを指摘した。それは「勉強というものは、勉強したら、したぶんだけ力が付く」という誤解である。もっといえば、「ちょっと勉強すれば、すぐに結果が出る」という誤解である。そんなことは、全くない。

では、実際はどうなっているかというと、「勉強しても、勉強しても、勉強しても、力は伸びず、ある瞬間突然、わかった〜〜〜〜〜〜〜〜!と分かる。または、できた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!とできる」というのが勉強というものである。

これをグラフにすると、次のようになる。これが勉強の実態だと言うことが分からなければならない。この勉強時間と実力の関係は、私は湯舟に水をためるときの関係に似ていると常々思っている。これを私は「湯舟の法則」と呼んでいる。




私が中学生の頃は、湯舟を洗い、水を張り湧かすというのが一般的な風呂だった。親に言われて、湯舟を洗い、栓をして水を貯める。ところが、じっと見ているときはなかなか貯まらないくせに、テレビなんか見ているとあっという間に貯まってしまい、溢れて親に怒られるということがあった。

これと勉強のどこが似ているのかと言うことだが、実に似ている。流している水は勉強の量だと思えばよい。流していることを意識しているときには、なかなかな貯まらないように、勉強していると思い続けているときは、力は付かない。ところが、勉強しているという意識がないくらいに自然に勉強を続けていると、突然分かるのである。できるのである。溢れる瞬間を感じることが出来るのである(この境目を、専門用語では、閾値(いきち)というのだ) 。


では、いったい何時その溢れる瞬間を感じることができるのであろうか。君たちが興味を持つのは、この溢れる瞬間(グラフではX)であろう。私の答えは、「分からない」というものである。そんな無責任なと言われても、これははっきりと「分からない」という以外に言えない。

なぜであろうか。主な理由を3つあげる。

  1. 流す水の量が分からない。
  2. 元々湯舟にどのくらい水が貯まっているか分からない。
  3. 湯舟の大きさが分からない。

1.に関して言えば、あなたがどのぐらいの時間と質で勉強をするのかが分からないということである。多くの質の高い勉強をすれば、早く溢れる。

2.に関して言えば、私立中学受験を目指して頑張ってきていた人、定期考査の前だけ頑張っている人、クラブが引退してから頑張ろうと思っている人といろいろいるわけで、今までどのぐらいの学力が貯まっているか分からない。予め多く貯まっていれば、早く溢れる。

3.に関して言えば、あなたの器の大きさが分からないということである。入れ物が大きければ、入れても入れても溢れないのである。入れ続ける時間がかかる大きな器のことを、「大器晩成」というのである。しかし、誤解しないで欲しい。入れ続けることをしないでいて、「時間がかかるな。オレは大器晩成だ」ということにはならないように。


で、さらに問題がある。勢い良く水を流しているのに、全く貯まらないと言う場合だ。これは何か? そうだ、栓を閉め忘れているのだ。勉強で言えば、復習である。入れる作業だけではなく、身につける作業もしなければならないのである。「学習」とは、学びと、身につけるための練習の二つのことを意味しているのである。

また、湯舟にヒビが入っていて、そこから洩(も)れるということもある。虫歯が痛くて勉強に集中できない、テスト前になると便秘をする、勉強しているつもりだが、実はただなんとなく夜遅くまで起きているだけなどが該当する。簡単に言えば、生活のリズムが崩れている、健康管理が出来ていないということだ。

どうだ、溢れる瞬間が分からない理由が、分かるだろう。

ただ、分かることもある。流し続ければいつか溢れる。私の経験からは、早い生徒でやりはじめて三ヶ月後、遅い生徒で高校に入ってからということである。いまからでは遅い?そんなことはない。その後の成長は急上昇なのだから。感動するぞ。

それから、もう一つ。溢れる瞬間が分からない理由だが、実は、殆(ほとん)どの理由は、他人には分からなくても、あなた自身には分かっていると言うことだ。


以上、風呂好きの私が発見した学習とその効果における「湯舟の法則」でした。

進路通信『The Seven Seas』より